アメリカ発の24時間ジム「エニタイムフィットネス」を日本で展開するファストフィットネスジャパンが好調だ。他国と異なるフランチャイズ戦略で北米に次ぐ多店舗展開を実現し、本国も期待を寄せる。
撮影:土屋咲花
フィットネスジムの競争が激化する中、トレーニングマシンに特化した24時間ジム「エニタイムフィットネス」が好調だ。運営するファストフィットネスジャパン(FFJ)の2024年3月期の売上高は158億2500万円(前期比7%増)、純利益は21億2300万円(同10.9%増)で、過去最高を記録した。
総合型フィットネスクラブと比べて設備も店舗面積も小さいエニタイムは、2010年の上陸時には「流行らない」とも言われていた。そんな予想をくつがえし、成長を続けてきた要因と今後の成長戦略について、FFJの山部清明社長に聞いた。
「好調なのはエニタイムとチョコザップだけ」
山部清明社長。日本ロシュ、ファーストリテイリング、Johnson & Johnsonなどを経て2022年にFFJの社外取締役に就任。2023年6月から現職。
撮影:土屋咲花
「いま、24時間ジムは何百ブランドもありますけど、色々なブランドから『買いませんか』という話が実はしょっちゅうあります。会員数や店舗数が伸びているのって、うちと(RIZAPグループが展開する)チョコザップぐらいで、他は集約へ進んでいる感じがします」
山部社長は最近のフィットネス業界事情についてこう明かす。
エニタイムの会員数は84万人(2024年3月末時点)で、山部社長も言及するチョコザップの会員数は約112万人(2024年2月14日時点)に上る。
一方で、フィットネスクラブの倒産は増えている。東京商工リサーチによると、2023年度の倒産件数は、2024年2月までの時点で28件。統計を開始した1998年以来、過去最多となった2022年度の16件を大幅に上回っている。
東京商工リサーチはその背景について、次のように分析する。
「急速に全国展開する『ChocoZAP(チョコザップ)』やグローバル展開する有力クラブの大手企業と、地場企業の間で価格、設備などを前面に出した顧客獲得競争が激化している」
この「グローバル展開する有力クラブ」はエニタイムを指しているとみられる。
エニタイムの国内店舗数は、2024年3月末時点で1134店。2027年度までに1400店舗に増やす計画だ。
資源高騰などによる出店コスト増によって新規出店のハードルが上がるなか、M&Aによる店舗数拡大も視野に入れている。
「流行らない」と言われたビジネス
エニタイムフィットネスの店内。日中は有人、夜間は無人で24時間営業する。トレーニングマシンの品質や店内の清潔さで競合と差別化する。
Fast Fitness Japan提供
エニタイムは店舗数世界最大のジムで、米国やカナダ、オーストラリアなど世界5322店舗を展開する。店舗数が最も多いのは北米だが、実は2番目に多いのが日本だ。世界シェアの約2割を占める。
日本に上陸したのは2010年。当時のスポーツジムの主流は、プールやスタジオも備えた総合型のスポーツジムで、中高年をターゲットに成長していた。
エニタイムのように、トレーニングマシンに特化したミニマルな業態には懐疑的な声もあり、創業メンバーだった前社長の土屋敦之氏はインタビューで「多くの業界人から流行らないし客も集まらないと言われた」と語っている。
下馬評に反して、24時間営業のエニタイムは、男性を中心とした若年層の「仕事の前後にトレーニングをしたい」というニーズをつかんだ。約80万人いる会員は40代以下が9割を占め、男女比では男性の比率が8割程度と高い。
日本展開にあたって、米国エニタイムのやり方をそのまま移植“しなかった”ことも成功要因になった。
海外のエニタイムは基本的にフランチャイズ(FC)店で、直営店を持たないビジネスモデルだ。他方、日本のエニタイムは全体の15%程度を直営店が占めている。
FC加盟店を拡大するためにも、日本では直営店舗を持つことを重視したという。「直営店で新しいオペレーションをどんどん開発しては、FC店舗に移植していった」(山部社長)という。
「掃除の仕方など日々の店舗運営に関するルールは200項目ほどあり、細かく決めています。常に気持ちよくお使いいただけるように(店舗を)磨いてますので、『どこへ行ってもきれい』という点がお客様から支えられている大きな理由の一つ」(山部社長)
フランチャイジーに対して展開エリアを限定しないことや、ロイヤリティの金額が月額9万円と固定であることなど、「FC店側にとってうま味のあるビジネスモデル」を示したことも店舗拡大を後押しした。
エニタイムはFCオーナー当たりの店舗数が5店舗を超え、ほとんどが複数店舗を経営している。
次の一手は「ドイツ」
日本でもさらなる店舗拡大を目指す一方で、FFJは次の成長エンジンを海外に求めている。
2024年5月1日、ドイツでエニタイムの展開を手掛けていた企業を子会社化し、ドイツでフランチャイズ展開する権利の取得を発表した。
日本での店舗拡大が成功したことで、米国から要請があったという。
子会社化した企業はドイツで既に1店舗を出店していたが、出店後すぐに新型コロナウイルス禍に見舞われたことで停滞状態が続いていた。FFJはこれを引き継ぎ、拡大を担う。
ドイツの人口は1億人に満たないが、日本よりもフィットネス参加率が高い。コロナ禍も明けた今、格好の市場とみている。すでに現地で社長を担う人材を採用し、FC展開を担う事業者とも話を進めている。
「最初の数店舗は直営店での展開を考えています。日本から人材を大量に送り込むのではなく、互いに行き来しながら現地のスタッフが日本流のやり方を学んで実践していけるようなやり方で進めていきたい。
日本での展開と同様、5年で約70店舗は出せるとみている」(山部社長)