【佐藤優】職場で対立、合意も難しい…どう仲裁すればいい? ポイントは「事実・認識・評価」の切り分け

sato_78.001

イラスト:iziz

シマオ:皆さん、こんにちは! 「佐藤優のお悩み哲学相談」のお時間がやってまいりました。読者の方にこちらの応募フォームからお寄せいただいたお悩みについて、佐藤優さんに答えていただきます。さっそくお便りを読んでいきましょう。

40代の医師です。私はしばしば職場などでトラブル解決の相談役を務めているのですが、当事者双方の理解と合意を導くことが困難な対立に遭遇することがあります。

佐藤さんは長年、外交上の根深い問題に取り組み、対話を通じて解決策を見出す努力をされてきました。

このような難しい場面での哲学実践において、特に心がけていることや、対立を乗り越えるために重要視しているポイントは何でしょうか?

(しもん、40代後半、男性、医師)

大学病院の出世争いが激しいわけ

シマオ:しもんさん、お便りありがとうございます。職場のトラブル解決で相談役を務められているとのことですが、医療の現場って一体どういうトラブルが起きるんですかね?

佐藤さん:文脈からすると、恐らく医師同士のトラブルではないかと思います。こういう医師間の対立というと、思い当たる小説はありませんか?

シマオ:あ、ついこの前の女性医師の方からの相談で推薦図書に上げていた山崎豊子さんの『白い巨塔』ですね!

佐藤さん:その通りです。恐らくですが、しもんさんもそのような環境で働かれているのではないかと。前にもお話ししたと思いますが、大学病院の医局におけるポストというのは、他の学部と違って非常に限られているんです。

シマオ:それぞれの医局に教授は基本的に1人だけ、でしたね。

佐藤さん:そうです。さらに各部長も1人、病院長も1人です。ポストがこのように限られている上に、誰もが超高学歴。その割には大学病院の医師の給料は高くはない。ですから誰もが必死で上を目指すわけです。ポストを巡る戦いは熾烈なものになります。

シマオ:た、確かにすごそうな世界ですね……。

佐藤さん:そういう組織では対立やトラブルが当たり前なんです。もちろん派閥もありますから、常にいろいろな場面でぶつかることになるわけです。

シマオ:『白い巨塔』では教授になるために主人公は必死になりますが、教授戦の際はもとより、普段からそういうことがあちこちであるわけですね。

佐藤さん:その通りです。ちなみに教授戦に敗れた方はどうなるかというと、本人はもちろんですがその派閥に属していた人間は、全員粛清されることもあります。

シマオ:粛清って! 怖いですね! 一体何が起きるんですか?

佐藤さん:全員が違う病院に飛ばされ、新しい教授の元で組織全体が刷新されます。

シマオ:ひえー!!

仲介や相談はむしろマイナスに働くことも

シマオ:改めて、大学病院がすごい競争社会であることは分かりました……。しもんさんが大学病院の方かどうかは定かではありませんが、仮にそうならば医局内の対立、医師同士のトラブルは不可避だということでしょうか?

佐藤さん:そういうことです。しかもそれが結局限られたポストを巡る争い、人事に結び付いていますから、対立もトラブルも自然なものだと受け入れるべきです。

シマオ:じ、じゃあ仲裁に入ったり相談役を務めたりすることは無意味なんでしょうか⁉

佐藤さん:対立を一時的に弱めることはできても、なくすことはできないと認識する方がよいでしょう。

大学病院などのポスト争いが根っこにある対立に関しては、最終的に勝ち負けをつけるしか解決策はないのです。つまりこの対立は大学病院、医局という組織の持つ構造的な問題だということです。

シマオ:ということは、むしろ下手に相談役など買って出ない方がいいとも言える……?

佐藤さん:そういうことだと思います。場合によっては、「あいつはどちらにもいい顔をしてコウモリみたいな奴だ。信用できない人物だ」と、双方からスポイルされかねません。

シマオ:それこそ損な役回りになっちゃいますね……。しもんさんのような立場だったら、どう対処するのが一番いいのでしょうか?

佐藤さん:強いて言うなら、とにかく対立する者同士の接点を極力少なくすることです。

両者の関係を良くしようとして交流の場を無理に設けたとしても、さらに火種や摩擦を増やすだけになってしまう可能性があります。お互い大人ですから、それぞれの仕事が特に大きな問題なく、上手く回ることだけに専念することです。

シマオ:なるほど、下手に対立を解消しようとか、理解させようということではなく、それぞれが一番問題なく動くことができる場を整える。そんなイメージでしょうか?

佐藤さん:そういうことだと思います。双方の会話もせいぜい天気の話くらいにとどめさせ、それ以上互いに入り込まない。一定の距離感をあえて作るということがポイントだと思います。

「事実・認識・評価」は分けて考えよ

シマオ:でも、対立の中にはどうしても調整が必要になる場合もあるかと思うんですよ。例えば、高額な医療機器が、ある派閥にとっては必要だけど、ある派閥にとっては不要、みたいなケースってあるんじゃないかと。

佐藤さん:確かにそういうケースはあるでしょうね。こういう問題が起きたときの対処法で、いつも私が言うのは「事実・認識・評価」を明確にするということです。

あわせて読みたい

Popular