航空機用エンジンで世界トップ10に入るIHI。安心な空の旅を身近にするために注力する事業領域とは

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幕末以来、日本を代表する重工業企業として歴史を重ねてきたIHI。彼らは今、大きな転換期を迎えている。

プロパー(生え抜き)社員が中心となって創り上げてきたカルチャーから舵を切り、キャリア採用=中途採用を進めているのだ。特に力を入れているのが、空領域こと航空・宇宙・防衛の分野だ。

IHIの主力事業の一つであるジェットエンジン生産は、世界トップ10に入るビッグビジネスだ。これまで他企業で活躍してきたさまざまなバックボーンを持つ人を受け入れる体制に作り変えてきているということは、その先にある新しいビジネスを見据えているのだろうか。

新たな場所で航空ビジネスの可能性を広げていく

市場予測によると「20年後には約1.6倍の航空機が必要になる」という。

航空機需要は世界の経済成長と共に伸びていく分野だ。既存の航空会社のみならずLCCといった新興航空会社の増加によって航空機の便数は増え、航空旅行は身近なものとなった。

コロナ禍では世界的な旅行需要の減退もおきたが、ここ1~2年における日本のインバウント需要の急上昇をみても“空の旅”は復活したといえる。

航空機のエンジンを開発してきたIHI。しかしエンジンを売ったらそれで終わり、とはならない。航空業界を支えるビジネスとして、定期的な整備まで担っている

民間航空機用エンジンの整備事業計画の策定と遂行を担うライフサイクルソリューションセンターで主査を務める小山恭輔氏は次のように語る。

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小山恭輔(こやま・きょうすけ)氏/IHI 航空・宇宙・防衛事業領域 ライフサイクルソリューションセンター 鶴ヶ島工場 プロダクション・コントロールグループ 主査

「エンジンを含めた航空機整備は、アウトソーシングが増えています。新しい航空機を導入する際に自社内で整備のための設備や人員を確保しなくてすみますし、それによって航空事業への参入もしやすくなっています」(小山氏)

そんな中で注目されているのが、航空エンジンのアフターマーケット市場だ。

「エンジン整備や部品修理も含めたビジネスです。IHIでは防衛省向けの航空機用エンジンも手掛けていますが、特に鶴ヶ島工場(一部工程は瑞穂工場)では民間航空機用エンジンを扱っています。中でも我々の部署は、エンジン整備に必要な部品を社外から手配するなど、物流管理が主な業務です」(小山氏)

IHIは2023年の時点で、エアバスA320ファミリーなどで使われている航空機エンジンの累計整備台数が1,800台を突破。それ以外にもIHIは日本国内で唯一、GBSA、すなわちGEブランドで航空機用エンジンの整備を請け負うことができる認定を受けている。エンジンメーカーとして培ってきた極めて高い技術力を活かし、エンジンのアフターマーケット分野でも高い存在感がある

そして2021年、民間用航空機エンジンの生産及び整備を受け持つ鶴ヶ島工場(埼玉県)が稼働を開始した。

「それまでは横田基地の側にある瑞穂工場(東京都)で航空機用エンジンの整備事業をやっていました。民間航空機がより多く飛ぶようになり、さらにはアフターマーケットにも重きを置いて事業を成長させようという経営判断のもと、民間航空機用エンジンの新しい技術を活用した整備拠点が必要となり鶴ヶ島工場が立ち上がりました」(小山氏)

現場で培われてきたスキルが活かせる場に

小山氏がIHIに入社したのは2004年。以来、部品製造分野、エンジン製造分野、アフターマーケット分野を渡り歩いた経歴から、今では“歩くサプライチェーン”を自称している。

当初は部品工場に配属され生産管理業務を担当していた。その後営業系の部署に異動になり、IHIが担当する新規製造のエンジン部品/モジュールの生産計画策定、納期調整業務を請け負うことになった。国際共同開発をしている海外のエンジン製造会社と調整を行う経験を積んだ。さらにはIHIが一般財団法人日本航空機エンジン協会を介して参画しエンジンプログラムを運営するジョイントベンチャー企業にてエンジン整備契約の業績管理を担当。オフィスのあったアメリカで約4年執務した。

帰国してからライフサイクルソリューションセンターに配属。エンジン整備における物流管理を扱う部署に配属となった。

アフターマーケットにおいて、いかにお客様に対して安全、安心を供給するかを司るライフサイクルソリューションセンターは、とても重要な部門です。

メーカーとしての部品製造から、エンジンを供給する上でのビジネスモデルまで、航空ビジネス全般に関わってきたことが活かせると思いました」(小山氏)

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早坂薦(はやさか・すすむ)氏/IHI 航空・宇宙・防衛事業領域 ライフサイクルソリューションセンター 鶴ヶ島工場 プロダクション・コントロールグループ スタッフ

2021年、顧客に向けてのカスタマーサポート、工場の工事管理といった生産管理全般を担うプロダクション・コントロールグループの社外修理部門にキャリア採用されたのが早坂薦氏だ。

前職では国際航空貨物輸送企業に10年ほど在籍しており,営業やマーケティングを主に担当。そのうち4年半ほどは海外に駐在、2年ほどは航空機部品輸送の営業を担当しており、その経験がIHIへの転職のきっかけになったという。

「航空機産業は成長分野だと認識していましたし、プロダクション・コントロールグループが受け持つ社外修理は、海外企業との調整や物流が関係している仕事で、前職での航空機部品輸送や海外での経験が活かせると思いました」(早坂氏)

早坂氏は、プロダクション・コントロールグループ業務のやりがいの一つは、「航空機が安全に運航され、誰もが安心して搭乗するために、民間航空機用エンジン整備事業の役割から貢献できること」と語る。

そのために海外のサプライヤに対する要求の調整や納期の管理を綿密に行い、整備日程が滞らないように業務に邁進している。

チームワークを意識した組織づくりがコミュニケーションにつながる

プロパー人材と転職してきた人材とでは、仕事の進め方一つをとってもやり方が異なることが多い。この問題に対して聞くと、プロダクション・コントロールグループが新しい工場で作られた新しい部署であることが効果的に作用していると話す。

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「転職後に最初に配属されたのは瑞穂工場で、そこから鶴ヶ島工場に移ってきたのですが、文化や環境が全然違うなという印象です。

歴史もあり既に業務フローが整っている瑞穂工場に対し、鶴ヶ島工場は一から構築する必要がありました。大変さはもちろんありますが、面白さもあると感じています」(早坂氏)


「新しく業務を立ち上げる課題を設定したタイミングで早坂さんに入っていただいたのですが、業務に慣れてきたかなと感じるや否や早坂さんにこの課題に対するリーダーになっていただきました。

チームビルディングとアイデアのとりまとめ、時には関係部署との折衝と多岐にわたる業務でしたが、早坂さんの動きや結果を見てみんなの意見でチームを作る大切さを改めて感じましたね。最初はぎこちないアクションフォローに終始しましたが、徐々に案件の大小問わずチームメンバーから意見が出るようになり一気に加速しました。

例えば、物流のルートについて、今までは瑞穂工場を経由したルートを組んでいたのですが、この3月からは鶴ヶ島工場で直接社外修理品の出荷から部品受け入れまで行うことになりました。その際、単純に直接出荷・受け入れを可能にするだけでなく、チームの後押しもあり前例を取り払った効率的な業務フローをつくりあげることができました」(小山氏)

その背景には、新規にエンジンを製造する場合はリードタイムが数カ月単位になるものの、整備の場合は顧客の航空機運航計画があるなかエンジン分解、部品修理、エンジン組立てといった一連の整備を行ってエンジンを戻すまでに許されるTAT(Turn Around Time)が極端に短いという事情があった。

過去の事例に基づいたやり方では効率化を追求しにくいことから、抜本的な変革が必要だった。

「前職は他業界だったこともあり、専門用語が分からないなど、苦労することが多かったですが、周囲のサポートでクリアになっていきました。

逆に物流や通関、国際関連の話の相談を受けるようになり、私としてもチームを支援できたと思います。また我々のチームはさまざまな部署を経験された方はもちろん商社出身のキャリア入社者がいるなど色々なバックグラウンドを持った人がいたので、お互いにサポートし合えたことが良かったのかもしれません」(早坂氏)

求む、航空機整備分野でのチャレンジャー

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航空機のエンジン整備を受注している企業は世界中にあるという。そのなかでIHIの競争力を高めて、どのように受注を増やしていくか。小山氏は鶴ヶ島工場をコアとしてライフサイクルソリューションの分野で成長していき、世界に冠たる整備屋になるという目標を語る。

「さきほど述べた案件になりますが、実は十年以上前にも同じようなオペレーションのDXを提案したことがありました。私の前任者も同じようなことを計画して調整を図ったのですが、当時は、従来の方式から変えることはできなかったのです。

鶴ヶ島工場に来るにあたって、再度その提案を持ち出したところ、今回は提案が通りました。

社内全体の意識も変わってきているし、我々のチームの動きを見てくれているのだろうという手応えを感じています

こういった変革からエンジン整備事業の効率化や納期短縮につなげ、競争力を高めていくことに繋げていけるのではないかと考えています」(小山氏)

また早坂氏は、関係者全員が一丸となって新しいオペレーションに取り組むモチベーションの高さに期待をしていると話す。

「鶴ヶ島工場は、瑞穂工場で働いていた人と新しく採用された人が集まった新しい工場です。

事務サイドも現場サイドも、新しいやり方を作り上げていこうという意識を持って同じベクトルに向かっているなと感じます」(早坂氏)

最後に、両氏に航空機ビジネスの進化を目の当たりにできるこの鶴ヶ島工場でどのような人材とチームを組みたいかを聞いてみた。

新しい環境で今までとは違うことがしたい、何かをやり遂げたいといった意思を持つ方が仲間になってくれたら頼もしいです。また相手の気持ちが分かるというのも大切です。社内の調整も社外の調整も相手がいることですし、相手の気持ちを慮って行動できる方はすごく強いと思っています」(小山氏)


「航空事業に限らず、世の中が大きく変わろうとしている時代だと思います。IHIも変革の中にいます。そんな変革の中で民間航空機用エンジン整備事業を始めビジネスをより良い方向へ変えていきたいと思うチャレンジ精神のある方、経験やスキルのある方は活躍の場が広がると思います。私も、そういう方と一緒に働いていきたいですね」(早坂氏)


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