株価は史上最高水準で推移しているが、バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)は最終的に景気後退入りの可能性まで予測する。
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米銀大手バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)のマイケル・ハートネット氏はこの先数カ月の米経済について、「ノーランディング」シナリオをたどる可能性が最も高いと考えている。
具体的には、健全な経済成長の原動力となる労働市場は引き続き堅調を維持し、一方でインフレは米連邦準備制度理事会(FRB)が長期目標とする2%まで下がらず高止まりする展開が想定されるという。
現時点ではそれで良くても、そのままだといずれは経済および株式市場に問題が生じることになるとハートネット氏は警鐘を鳴らす。
と言うのも、インフレが高止まりすれば、FRBは引き締め政策の維持もしくは(再度の利上げなど)より引き締め的な政策への移行を強いられ、それは企業や消費者向けの融資や消費支出を減速させ、結果として景気後退のリスクが高まるからだ。
ハートネット氏は4月11日付の顧客向けメールで次のような分析を披露した。
「当社としては、ノーランディングリスクの上昇はハードランディングリスクの上昇と同義だと考えています。
FRBが再び金融引き締めに転じ(現時点で市場の利上げ織り込み度は15%)、不動産投資信託(REIT)、地方銀行、米小型株を起点に伝染リスクが生じる可能性があるからです」
多くの指標から見て、米経済は堅調のようだ。
直近3月の失業率は3.8%と歴史的な低水準が続き、非農業部門の雇用者数も30万3000人と4カ月連続で20万人を突破する強さを見せている。
米GDP(国内総生産)のおよそ3分の2を占める個人消費も(移民急増を追い風に)堅調を維持。家計のバランスシートも(圧迫感は出てきているものの)健全で、住宅価格は過去最高を更新する勢いが続き、株価は過去最高からわずかに下げたものの記録的な水準で推移する。
ただし、亀裂も生じ始めている。
クレジットカードや自動車ローンの延滞率が上昇し、レイオフ(一時解雇)も増えている。
スモールビジネス(中小企業)の雇用計画は(パンデミック発生直後を除けば)2016年6月以来の低水準に縮小し、楽観視する向きはもはや少ない。中小企業の雇用者数は米労働市場全体の3分の2を占めるだけに懸念材料と言える【図表1】。
【図表1】米中小企業のうち新規雇用創出を計画している企業の割合(左軸)と離職率(自発的離職者の割合、右軸)の推移。
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また、ここ数カ月のハイイールド債の価格急落(すなわち利回りの急上昇)も、景気の後退局面を示唆するシグナルだ。デフォルト(債務不履行)などのリスクが高いので、投資家は不安定な経済環境下ではハイイールド債により高い利回りを求める。
米資産運用最大手ブラックロック(Blackrock)が提供する上場投資信託「iシェアーズ iBoxx 米ドル建てハイイールド社債ETF」は最近、200日移動平均線を下抜けた。過去には2020年、22年に同様の下抜けを記録し、その際は景気が減速、株価は急落している【図表2】。
【図表2】「iシェアーズ iBoxx 米ドル建てハイイールド社債ETF」とその200日移動平均線の推移。直近では4月24日に下抜け。
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S&P500種株価指数は過去最高値を若干下回る水準で推移しており、好調そのものに感じられるが、株価が下降トレンドに向かう可能性を示唆するシグナルが点灯していることは紛れもない事実だ。
ハートネット氏によれば、株価がバブルの領域にあることを示唆するシグナルも複数点灯しているという。
その一つは、ハイテク株比率の高いナスダック総合指数と米10年物国債の利回りが同時に上昇している足元の状況だ。過去のデータを見ると、この現象はバブル期もしくは景気回復期だけに確認されている【図表3】。
【図表3】ナスダック総合指数の年間リターン(%、横軸)と米10年物国債利回りの年間変化率(ベーシスポイント、縦軸)の関係。
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2024年中にFRB追加利上げの可能性
コンセンサス市場予想は、2022年には「ハードランディング(景気後退を伴う急激な景気の失速)」だったが、2023年から24年にかけて「ソフトランディング(景気後退を伴わない緩やかな失速)」へとシフトした。
しかし、ハートネット氏が考えるように、FRBが政策金利を想定より長く据え置く可能性が出てきており、今後数カ月の間に見通しを弱気シナリオに下方修正する動きが出てくるかもしれない。
投資家の多くは2023年12月時点で、FRBが今年3月にも最初の利下げに踏み切ると予想していた。
しかし、雇用統計が想定以上の底堅さを見せ、インフレ率も3%台前半での推移が続いており、現在では7月の利下げを予想する声が多くなっている。
ただし、市場では9月まで見送られるとの観測も強まっており、2024年中の利下げ可能性は消えたと見る向きもある。
米富裕層向け資産運用会社ランズバーグ・ベネット(Landsberg Bennett)のマイケル・ランズバーグ最高投資責任者(CIO)は4月25日付の顧客向けメールで次のように指摘する。
「当社はFRBが2024年中の利下げを回避すると考える立場です。利下げ実施の可能性が低いどころか、インフレ率上昇、失業率低下、株価上昇、ビットコイン急騰、新規株式公開(IPO)の再加速など諸々の状況を踏まえると、24年中に追加利上げに踏み切る可能性も十分あります」
ロシア・ウクライナ戦争とガザ危機、イスラエルとイランの報復合戦など、地政学的緊張の高まりを背景に、2023年12月以降は原油価格の上昇が続いており、それが世界中でインフレ再燃の起爆剤になる可能性も否定できない。
北海ブレント原油価格は12月初旬に1バレル75ドル程度だったが、イランがイスラエル領土へのドローンおよびミサイルによる報復攻撃に踏み切った3月13日に90ドルを突破、4月下旬時点でも90ドル前後で高止まりしたまま推移している。
とは言え、ポストパンデミック期の地政学的リスクや金融政策リスクにもかかわらず、米経済はこれまでのところ景気後退の回避に成功しており、弱気派の予測はことごとく裏切られる形になっている。今後もそうした展開が続くかもしれない。
一方で、ハートネット氏が主張するように、「ノー・ランディング」シナリオが長期化することで景気後退と弱気相場のリスクが高まる展開も否定できない。