筆者のクリス・ウィリアムズはマイクロソフトの副社長時代、数々のプレゼンに立ち会ってきた。
Chris Williams
あなたが上級役員に自分の主張を伝える機会を得たとしよう。それが正式なプレゼンテーションであれ簡単なミーティングであれ、あるいは立ち話のようなものであれ、とても緊張を強いられるものになるだろう。
私はマイクロソフトの元副社長であり、経営幹部や取締役の前で何度もプレゼンテーションを行ってきたし、数え切れないほどのプレゼンを受けてきた。最高レベルの人たちにプレゼンするときは、ベストを尽くさなければならない。
そんなプレゼンをどう乗り切るか。4つのコツを紹介しよう。
1. 重要な主張を冒頭に持ってくる
自分が持っているベストな主張からプレゼンを始める。もったいぶって肝心なところを最後に取っておいたりしないこと。質問が飛んでくる前に、最初の壁を乗り越えられないことはよくある。
最初から強い態度で臨もう。もし、観衆が姿勢を正して聞き入るような予想外の提案があるなら、そこから始めるべきだ。
私はマイクロソフトの役員会で、報酬の総点検に関するプレゼンを行ったことがある。全従業員の給与、株式、職務レベルさえも変えてしまうという重大な決定だった。私の最初のスライドは、「私たちは、102億ドル(約1.5兆円、1ドル=148円換算)の決断をするためにここにいる」だった。そのおかげで最初から役員たちの注意を引くことができたのだ。
2. 要点を簡潔にまとめる
プレゼンの提案は、1つか2つの文章に要約する。そう、本当に、見出しだけで十分なのだ。役員たちは多忙で、簡潔な議論を聞き慣れている。だらだらと話してしまうと、彼らはあなたのプレゼンに興味を失うだろう。提案についての補足説明など心配無用だ。もし詳しく聞きたければ役員の方から尋ねてくる。
私は報酬に関するプレゼンの中で、主張をこんなふうに簡潔にまとめた。「報酬を決定するうえで、当社は株価の上昇ばかり注視しがちでした。しかしこれだと、株価が下がれば雇用の優位性を失い、従業員の多くを失う危険性があります」。従業員が事業の中心であることは明白な事実だった。
3. 主張を明確に
あいまいな表現、とんちんかんな表現は禁物だ。形容詞や副詞は避けて、明確な視点から、明確な主張をすること。相手があなたの意見を聞きたいと思っているからこそこの機会を設けたのだということを、自分によく言い聞かせることも有効だ。そう、自信を持って挑もう。
私は、オプションやコンセプトを提示したり、指示を仰いだりするためにプレゼンをするのではなく、すべての従業員の給与、株式、職務レベルまでを変更するという、明確で詳細な提案を持っていた。長期的に問題を解決し、会社を将来成功に導くことができる提案であると確信していた。だから自分のスタンスを明確に示したのだ。
4. 直接的な答えで質問に対応する
あなたも初めてのプレゼンでは質問を想定して準備と思うが、それと同様に、質問は常に想定しておこう。歯切れのよい返答を用意しておくべきだ。
良い提案を行えば、厳しい質問や反発も予想される。こういうときに望ましい回答はたった2つだ。
- イエス、ノー、数字、日付など、直接的で具体的な答え。
- 「分かりません。しかし〇〇までにお返事します」と日付を明記する答え。
「場合によります」や「複雑な要素が絡みます」といった答え方は、要するに体のいい「分かりません」でしかない。ここは一旦退いて、しっかりとした答えを持って戻ってきた方がいいに決まっている。
私はあるベテランの役員から、「これはつまり、全従業員の報酬体系を一新するということか?」と聞かれた。このとき詳細なスプレッドシート付きの追加資料を見せることもできたが、私はそうせず、代わりに「はい、その通りです」と答えた。彼はうなずき、私たちはそのまま話を続けた。
また、話をやめるタイミングも重要だ。多くの人は緊張すると、自分の意見を主張し続ける。あるいは、必要以上に細かい情報を詰め込んでしまう人もいる。
話をやめるタイミングを判断する簡単なヒントがある。それは、聴衆があなたから目をそらし、メモや携帯に目をやった時だ。うなずきながら聞いていた聴衆が、途中でうなずくのをやめてしまった時もそう。これは意見の相違ということではない。もしそうならすぐに何か言ってくるはずだ。これは、彼らがあなたのプレゼンに興味を失ったサインだ。そしてもし自分がとりとめのないことを言っていると感じたなら、相手も十中八九そう思っている。
報酬に関する私のプレゼンでは、説明の必要性を過大に見積もりすぎていた。30枚のスライドのうち16枚目まできた時には、事前に資料を読んでいた役員全員はすでに内容を明確に理解し、内容に同意していた。
当時CEOに就任したばかりのスティーブ・バルマー(Steve Ballmer)はそこで私をいったん止め、「これに賛成の人は?」と尋ねた。私の提案はその場で全会一致で可決された。3万2000人を超す社員が、即座に大幅な昇給と新しい職務レベルを手にすることになったのだ。
最後に、こういったチャンスは、あなた自身が、話を聞く価値のある人物になることで手に入るということを忘れないでもらいたい。彼らはあなたの話を聞きたいと思い、あなたに驚かせてもらいたいと思うようになる。そうすれば、このようなチャンスはもっとたくさんやってくるだろう。
※この記事は2022年10月27日初出です。
クリス・ウィリアムズ(Chris Williams):リーダーシップアドバイザー、ポッドキャスター、TikTokクリエイター、作家。マイクロソフトの元人事担当副社長。