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双日がアメリカの「合成生物学」ベンチャーGinkgo Bioworks(ギンコ・バイオワークス)と業務提携を結び、同社の研究開発サービス(バイオファウンドリサービス)の日本展開を共同で進めていくと発表した。
ギンコ・バイオワークスは、2021年5月に総額175億ドルのSPAC(特別買収目的会社)との合併によってナスダックに上場。世界でも合成生物学分野のパイオニアとして知られているスタートアップだ。同社の時価総額は現在約19億ドル(2945億円:1ドル=155円換算)前後で推移している。
コロナ禍では、mRNAワクチンを開発したモデルナの開発支援などにも携わった。
両社は今後、日本の製造業に対し、合成生物学を活用する「バイオものづくり」の導入を促進していくとしている。
2030年に市場規模約92兆円
現代のものづくり産業は、石油化学製品が主体だ。ただ、資源問題や気候変動対策などをはじめとしたさまざまな課題がある中で、石油化学原料を起点としたものづくりから、生物を起点としたものづくり(バイオものづくり)への転換が国内外で期待されている。
実際、微生物や植物などの生物資源を原料にさまざまなプロダクトを生み出す取り組みは、ニュースなどでもよく報じられている。
日本でも、2030年を目処に約92兆円規模のバイオ関連市場の形成を目指す「バイオ戦略」を策定している。
ただ実際のところ、生物を起点としたものづくりの事例はすでにいくつも存在する。
例えば、製薬業界では化学的な手法で製造される医薬品だけではなく、もともと微生物を発酵させる過程で生じるタンパク質などの物質を薬に活用することは多い。ほかにも、ゴールドウインやノースフェイスなどに素材を提供している人工タンパク質製造ベンチャーのスパイバーは、人工タンパク質の製造に微生物を活用したバイオものづくり企業の一例だ。
ではなぜいま、改めてバイオものづくりが注目されているのか。その要因の一つとして背景にあるのが、「合成生物学」の急速な発展だ。
合成生物学が「バイオものづくり」の潜在能力を開放する
細胞開発を行うGinkgoの研究開発用設備。
画像:双日
合成生物学とは、遺伝情報などを人工的にデザインした微生物などを作り出そうという学問分野の一種だ。ゲノム編集技術の登場や、DNA解析・合成コストの低下といったバイオテクノロジーの発展とともに、ここ数年急速な成長を遂げている。
ギンコ・バイオワークスはその世界的けん引役の1社と言える。
前述の通り、薬や繊維をはじめ、燃料、プラスチック製品など、微生物はすでにさまざまな物質生産の現場に活用されてきた。ただ、ここに合成生物学の知見を取り入れることで、生産効率の向上やこれまでにない機能を持った素材の開発、更には二酸化炭素を原料に素材を作る微生物を活用した新しい製造プロセスの実現といった、新しい可能性が広がることが期待されている。
今回の発表に際して、双日の泉谷幸児常務執行役員は
「二酸化炭素の排出量削減と持続可能なバイオベースの製造プロセスの開発に取り組む日本企業に対し、ギンコの技術を提案できることを喜ばしく思います。ギンコの合成生物学における専門知識と幅広い技術力は、工業分野を含む日本の多種多様な業界において、製造プロセス変革に向け貢献できるものと確信しています」
とコメントを寄せている。
経済産業省の資料によると、米中ではこの分野にすでに数兆円単位の投資が進んでいる。日本でもグリーンイノベーション戦略などで約1800億円の予算を組むなど投資を進めていくとしているが、日本の合成生物学ベンチャーはまだ数も規模も小さい。
双日の広報担当者は、ギンコ・バイオワークスと業務提携を結んだ経緯について、ギンコ・バイオワークスが持つ技術的な特徴があることのほか、「お互いのニーズが合致し、提携に至った」とBusiness Insider Japanの取材に対して説明した。
今後、双日としては事業開発力や顧客網、これまでバイオものづくりに関わる事業に取り組む中で培ってきた経験を生かしながら、国内で製造プロセスのバイオ転換を検討している潜在顧客に対してソリューションの提供を進めていく。具体的な売上目標については回答を控えた。
なお、ギンコ・バイオワークスは、5月9日に発表した第1四半期決算で大幅な減収を発表。改善策を示してはいるものの、株価が連続30営業日続けて1ドル未満と低迷していることから、5月13日(現地時間)にはニューヨーク証券取引所から株価が一定水準を下回っているとして通告を受けている(ただちに上場が廃止されるわけではない)。